「廃用身」

2003年7月21日 読書
「廃用身」by久坂部羊 を読む。

作品中で語られる近未来ネット小説。
「203×年。巨大なエアドームに1000のカプセルが並ぶ。
すべてに両手両足を切断され、頭と胴体だけになった老人たちが入れられている。
腹の中央に胃ろうチューブ、左側に人工肛門、股間には導尿チューブをつけられている。
栄養は流動食、排泄は浄化ホース、床ずれ予防に定期的にエアマットが膨らみ、入浴のかわりには週二回インキュベータ洗浄が行われる。
車の自動洗浄の要領だ。
介護を極限まで合理化して効率の良いケアを実践している。・・・」

老人デイケアクリニック院長・漆原糾の言葉。
「2050年には3人に一人が高齢者になる。
50年後には、現在40歳以上の人は自分はこの世にはいないと思っている。
自分たちにとって深刻な介護破綻は自分が死んだ後の問題。
一方、現在の20代・30代は50年後には老いの真っ只中。
そのとき高齢者を支えるのは、格闘ゲームに熱中し、デジタル・ペットをリセットし、ホームレスを襲い、趣味もスポーツも液晶画面で代用して育つ世代。
そのころには保険も年金も破綻している。
他人の痛みを感じられないであろう世代が、過重な介護を背負わされたとき、いかなる挙に出るか恐れる。
私はもし脳梗塞で手足が麻痺したら迷わず『Aケア』と『Sケア』」を受ける」。

☆☆☆☆☆☆

久しぶりに一気に「読ませる」作品に出会った。
読みながらも読み終わったあとも救いようのない重いものが残る。
ものすごく衝撃的な「問題作」で、読んだ後言葉も出なかった。

「廃用身」とは、麻痺して動かず回復しない手足のこと。
漆原医師の究極の医療「Aケア(Aはアンプタ『切断手術』のA)」とはそれらを切断すること。
「Sケア(Sは『肛門』のストーマのS)」とは人工肛門をつけること。
そうすることによって介護労働を減らせる、というもの。

「えっ!?」と思って読み始め、「もしかしたらこういう可能性も考えられるのかもしれない」と少し肯定的な思いで読み進め、それでもやっぱりそのグロテスクさを生理的に受け入れられない思いがあり・・・・。
老人介護の実態・老人虐待・医療問題・マスコミの糾弾・殺人・自殺。
次々と出てくる衝撃的な話に言葉を失う。
最後の「著者略歴」までがこの作品だと知り「ああ・・・」と安堵する。
それでも確実に高齢化社会はやってくるのだ、という現実を考えるとき・・・やっぱり私は語るべき言葉を持たない。

コメント

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索