蛇にピアス

2004年3月15日 読書
遅ればせながら「蛇にピアス」金原ひとみ を読む。

文中より。
「店を出るともう外は陽が傾きかけていた。
空気がさわやかで、むせかえりそうだった。
電車に乗って、アマの家に向かう。駅から家までの間、家族連れが多い商店街のうるさい人々の声に、吐き気を覚えた。
ゆっくり歩く私の足に、子供がぶつかった。
私の顔を見て、そ知らぬ顔をするその子の母親。私を見上げて泣き出しそうな顔をする子供。
舌打ちをして先を急いだ。こんな世界にいたくないと、強く思った。
とことん、暗い世界で身を燃やしたい、とも思った。
・・・・とにかく日の光の届かない、アンダーグラウンドの住人でいたい。
子供の笑い声や愛のセレナーデが届かない場所はないのだろうか」。

「人を殺したかもしれないとき、人は何を思うんだろう。
自分の将来、大切な人のこと、今までの生活、きっと様々な想いが頭に浮かぶのだろう。
でも、そんなのわからない。だって私には未来なんて見えないし、そんなのあるかどうかだってわからないし、大切なひとなんていないし、生活なんて酒びたりでよくわからない」。

「現実味がない。今の私が考えていることも、見ている情景も、人差し指と中指ではさんでいるタバコも、全く現実味がない。
私は他のどこかにいて、どこかから自分の姿を見ているような気がした。
何も信じられない。何も感じられない。
私が生きていることを実感できるのは、痛みを感じているときだけだ」。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

舌ピアス・刺青・身体改造・セックス・殺人・・・。
「アンダーグラウンド」の世界が次々と綴られる。
そして「その世界の住人でいたい」とする主人公。
「何もわからない」「現実味がない」とし、「生きていることを実感できるのは痛みを感じているときだけ」とする主人公。

文中にある「子供の笑い声や愛のセレナーデのある陽の光があふれる場所」にいる私は、この世界とは対極の住人なのだろう。
短く簡潔な文体で綴られる別世界のできごとはとても興味深く読める。
が、作者の経験なしではここまでリアルには描けないだろうと思うとき、私は心が痛くなる。

作者だってはじめからアンダーグラウンドの住人だったのではないはずだが・・・まだ若いのにこんな世界を知ってしまったとは。
作者の経歴はさまざまなメディアで取り上げられているが、どんなふうに生きてきてこれからどう生きていくのか、そのほうが私には興味深い。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「蹴りたい背中」「蛇にピアス」のニ作品を読んでみて・・・。
綿矢りさと金原ひとみ。
ふたりひとくくりで語られることが多いが、それぞれ全く違う個性を持っている。
確かに「二人まとめて」の方が話題性はあるし、おかげで低迷している日本文学界も少しここで浮上したかの感はあるだろう。
でも彼女たち、きっとお互い「こんな人といっしょにしないでよ」と迷惑してるのでは・・・。

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