閉ざされた門

2005年3月12日 日常
先日。小学生たちと校庭での体育の時間。
サッカーの授業の補助をしていると、75歳ぐらいのおばあちゃんがおぼつかない足取りで小学生のほうへ歩いてくる。
一目見て「あ、あのおばあちゃんだ」とわかる。

そのおばあちゃんとは以前にも2度、やはり同じような校庭での体育の時間に話したことがある。
週に3日のパートの先生の私でさえ2度話しているんだから、きっと何度も校庭に来ていたのだろう。
「前にこの学校の先生だった」と言うが、少し服装も会話もピントのずれたところはある。
ちょっと認知症気味だけど、なつかしくなったのかなと思い、「ここに座って子供たちの様子を見ていってくださいね」とけやきの木の下のベンチをすすめると、にこやかに笑ってちんまりと座って小学生たちを見ていたのだった。
そのおばあちゃんに限らず、少し前までは四季によって景色を変える大きなけやきの下のベンチは近所のお散歩の人が一休みできる場所だった。

寝屋川の教員殺人事件があってから、職場の小学校でも安全面が見直しされた。
門は施錠され、正門にはテレビつきインターホンが設置された。
このため、授業中は外からも中からも勝手には出入りできない。
ちょっとでも遅刻したら門は閉ざされているし、今までみたいに子供が忘れ物をしたからといって親が簡単に子供のところに届け物をすることもできなくなった。
もちろん近所の人が散歩のついでに立ち寄ることもできなくなった。

不審者、というか、校舎内外に普通にいるべきではない人を見かけたら「何のごようですか」「どちらへ行きますか」と声をかける、と先日渡された教師用マニュアルにも書かれてあった。
そのおばあちゃん。
小学生たちの保護者というにはちょっと違うし、服装もなんとなくちぐはくで何よりサッカーをしている中に歩いてくる、というのがちょっと変。
老人なのでまさか刃物を持っているとも思えないが・・・クラスの担任の先生、おばあちゃんのところへ走っていき、マニュアルどおりに声かけ。
子供たちも「どうしたの」「なに」と寄ってくる。
職員室から見ていた教頭もすぐに異変に気づいたのか外に出てくる。
おばあちゃん、しどろもどろになり言っていることが要領を得ない様子。
大の男が二人で責めたらかわいそう・・と私も走っていき、「おばあちゃん、どうしましたー?」と声をかける。

認知症の方に対しては、言っていることにさからったり正しい理論を言ってもだめ。
話を聞くと・・・「自分はここの学校の先生だった。きょうはお手紙をもらったから来た。この前も来たけど門が閉まっていて入れなかった。せっかく手紙をもらったから来たのに」とのこと。
先生時代の話など聞くといろいろと話してくれ、「先生」と呼びかけ、「今は授業中なのでね、みなさん忙しいみたいだからまたあとできてくださいね」と言うと、納得したようで正門から出て行った。

きっと業者の方の車が入るか何かでたまたま正門があいていたから入ってきたのだろう。
でも・・おばあちゃん、お手紙をもらったから、って来たのに門が開いていなかったらさびしかっただろうな。
きっとおばあちゃんが先生だったころはいい時代だったに違いない。
校庭でベンチに座って小学生たちを見ているだけでそんな時代に戻ったようでうれしかったのだろう。

きっと・・・あのおばあちゃんはもう校庭には入れない。
教頭も「不審者かと思ったらボケたばあさんか」なんて言って苦笑していたし。
また来たとしてもまともにとりあってはもらえないだろう・・・。
心が痛くなった。

コメント

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索