免許証の更新に行く。

私の免許証はブルーのラインが入っていた。
何年か前にスピード違反をしたから。
法定速度でなんて走ってられるか!というほど見通しがよく、気持ちよーくアクセルを踏みこめる場所で私は捕まったのだった。みんなとばしてる場所だもん・・・運が悪かったとしか思えない・・・。

違反は後にも先にもドライバー人生ではこれっきり。
今回の免許更新でブルーのラインがゴールドに戻り、あの忌まわしい思い出ともオサラバと思っていた、のに!

受付のおねえさんに「過去5年以内に違反をしているので『一般運転者』ですね。60分の講習を受けていただきます」と言われる。
えっ!
「優良運転者」で「ゴールド」じゃないの?また青いライン?とすぐには事態を飲み込めないまま・・・・
配られた冊子などを眺めながら待つ。
まずは視力検査。
つぎに免許更新のキモともいうべき写真撮影。
5年間、証明書になる写真。それなりに写ってほしいもの。
髪をととのえ、あごは引いて目はぱっちり。

そして講習。
おねえさんのお話に引き続き、ビデオ講習。
一本目は、「『かもしれない』運転のこころがけ」とかいう内容。
婦警さんが説明しているのだがどうみても素人じゃない、なんちゃって川島なお美風。
やけに思わせぶりでエロい話し方のためコスプレ風なのだった。
私はそっちが気になり内容どころではなかった。
売れない俳優さんが、気合い入りすぎてあんなんなっちゃったんだろうか。
一部マニアにはウケるかもなあ。

30分の講習ですむ「優良ドライバー」の方々はここで終了。
名前を呼ばれて新しい免許証を受け取り、部屋を出て行く。
名前が呼ばれなかった私はひとりだけ残されてしまった・・・・ううう。
わけもなく悲しい気分に。
ここでやっと自分がゴールドではないことを認める・・・。

引き続き30分の講習。
新しく講習を受ける人たちが部屋に入ってくる。
またまたおねえさんの話に引き続き、ビデオ。
オープニングは、事故でつぶれた車の写真などで、眠くなりそうだなあなどと思いながら見始める。

しかし!
・・・・すぐに私はビデオに釘付けになり、しかも涙をこらえるのに必死になっていた。
実際に家族を事故で亡くされた方々の「こんなつらい思いをする人がひとりでもいなくなるよう」と協力のもとできたビデオだという。

映像は、おとうさん・おかあさん・おにいちゃん・弟の4人家族で、小学校に入学したばかりの弟を事故で失った家族の日常を映す。
かわいい弟だけが欠けた家族の食事の風景、使ったままで持ち主がいなくなった勉強机、弟が工作で作った魚の作品、これ以上、刻まれることのない柱の成長の記録・・・。
幼い弟の赤ちゃんのころの写真や小学校入学のときの晴れ姿などの数々の写真・・・。
場面を盛り上げるような音楽などいっさいなし。
感情をせいいっぱいおさえたおかあさんの淡々とした語りが続く。
こんな免許更新ビデオなんかで涙を流しちゃまずい・・・と必死で涙をこらえたが、亡くなる直前の日付がついたおかあさんあてのたどたどしい文字のお手紙を見たらもうだめ・・・・。
胸がしめつけられて涙があふれる。
「事故は加害者も被害者もつらいです。でも加害者はやり直せるチャンスがあります。被害者はそれがありません」というおかあさんの言葉が胸にしみる・・・。

そのお話のあとも、幼い娘を残して、ダンナさんを失った奥さんの話、奥さんと娘を一時に失い、小さな息子だけが残ったおとうさんの話が続く。
遺品を整理しようとして「服はだめですね。服は・・・」と言ったきり号泣するまだ若いおとうさん。

私だけではなく、講習を受けていたほかの人たちも鼻をすすったりハンカチを取り出したりしていた。
ここでこんなものを見せられ涙するなんて・・・。
やられたーという気持ちと思わぬ拾い物をしたという気持ちと。

いやいや、それもこれも私が前科モノの「一般ドライバー」だったから。
「優良ドライバー」だったらあやしい婦警さんの説明ビデオ一本で終わりだったんだから。
隠れた超大作・感涙ビデオをおがめたのもあのスピード違反のおかげか。

さて、できあがった免許証は、ヘンにのっぺりしていてしかも上目使いをしたため「どこ見てんのよ!」な顔をしていた・・・。
即座に財布の奥深くに封印したのは言うまでもない。

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