中国からの花嫁

2008年1月26日 日常
週に2、3人ずつ職場には「学生さん」が来る。
訪問介護員の資格を取得するためには、3日間の施設での実習と1日間の訪問介護の実習が必要だからだ。
学生さんは一日、先輩ヘルパーについて行って現場の様子を見つつ、時にはいっしょにお仕事をする。

朝、会社に行って、事務所の長机に緊張した面持ちの見慣れない顔が座っていると「あーきょうの学生さんか」と思う。
きょうはずいぶん若いな、とか、きょうのはオバチャンだなーとか。

学生さんを連れて行く担当のときは、前もってわかっていることもあるし「きょう磯野さんね、お願いね」などと急に朝言われることもある。
個人プレイがキホンのお仕事なので、たまに人といっしょに回るのは変化があってけっこう楽しい。
老若さまざまな学生さんを担当してみると、気さくなオバチャンの学生さんがいっしょに回っていてラクかな。
家事は手際がいいし、じいさんばあさんへの接し方も年の功でじょうずだし、同じ主婦として「コドモに金がかかるー」と世間話もできるし。

おととしあたりから施設には外国人ヘルパーが見られるようになったという話は聞いていた。
最近うちの会社にもちらほらとフィリピンやタイ、中国からの学生さんが来るようになった。

先週のこと。
「あした磯野さん、学生さんね」と言われていたので、そのつもりで出勤。
緊張した顔で座っているのは、山田優を小柄にしてぽっちゃりさせたような30ちょい前くらいの学生さん。
「おはようございます。よろしくお願いします」とあいさつするその話しぶりで・・・うわーどうしよ、日本人じゃない。
社員さんに「中国からの方ね。主婦の方。あーだいじょうぶ。日本語話せるから」と紹介される。

そうはいっても・・・どの程度理解できるのかなー。
利用者さんとのコミュニケーションはだいじょうぶなのかなー。とちょっと心配。
ソレと同時に・・・こういうのは間違った認識だとあとで知るのだが、独身高齢男性のお見合いツアーなんかで知り合った人と結婚して日本に来たのだろうか?とか、つい考えをめぐらしてしまう。
でも、せっかくの国際交流のいい機会だから、いろいろ話してみよう!と移動の車中で会話のジャブを出す。

ちょっと話してみると、日本語はだいたいだいじょうぶのようだった。
会社にあった利用者さんのファイルも読んで理解していたので、漢字・ひらがな・カタカナも読める。
お仕事についていろいろ質問してきたりするので、取り組みの姿勢も前向きだ。
実際、仕事で家事をやってみると、なかなか手際もよく気も効く。
このお仕事は掃除・洗濯・調理・・とけっこう家事の部分も多いので、独身の若い学生さんだと何もできなくてこっちが困ることがある。

学生さん、結婚して日本に来て3年目だという。
日本語は日本語学校にも通ったし、ラジオやテレビで覚えたというがんばりやさんだ。
ご主人のご両親と同居していて、なかなかにかわいがられているようだ。
「ダンナさんのおとうさんおかあさんもトシなのでそのうちお世話することもあると思いましたので、介護の勉強しています。人の役にたつ仕事です」と殊勝な言葉に耳が痛い(←デキの悪い嫁)。
日本と中国のラーメンやギョーザの味の違いとか、初めて食べた納豆や梅干の味のこととか「食」の話で盛り上がる。

3件目のお宅で。
お話好きなおばあちゃんに「きょうの学生さんは中国から来たんですよ」と紹介する。
すると・・・おばあちゃん目がキラリと光り、私が聞きたいなーと思っていたストレートな質問を学生さんにぶつける。

ばあちゃん「ご主人とはどうやって知り合ったの?」。
学生さん「仕事で私の街に来ていました。大きい街なので日本の会社も日本人も多いです」。
・・・ああー。恋愛結婚かー。お見合いツアーじゃなかったな。
ば「知らない場所にきて寂しいでしょう?」。
学「飛行機で2時間半で帰れるし、パソコンのカメラでいつも話ができるから寂しくないです」。
・・・うわっ。そうか!情報機器の発達で世界は狭くなってるんだ。
ば「おとうさんおかあさんは、日本人と結婚するって言ったとき反対しなかった?」。
学「自分の考えで決めなさいって言われていて、ずっとそうだからだいじょうぶでした」。
・・・えっ。そうなんだ!

ば「あらまあー。おとうさんおかあさんのそばにいるごきょうだいは他にいるの?」。
学「いえ。中国は一人っ子政策ですから。私だけです」。

ここまで話して、私とおばあちゃんは顔を見合わせる。
そのおばあちゃんも一人娘を横浜に嫁に出したと寂しがっていたからだ。(電車で2時間で行くけどね)
私もやっぱり実家から離れたところに嫁に来て、今になって失敗したと思う・・なんて話していたし。(新幹線で2時間半ですが)

もし、娘が外国人と知り合って海外に行くと言ったらどうだろう。
いくらダンナさんがいるとはいえ、知り合いもいなくて言葉も通じない海外になんて・・・。
娘の身も心配だが自分も寂しいだろうな。
おばあちゃんも私も口をそろえて「日本の人たちならきっと、一人娘が海外に、っていうのは反対すると思うなあー」。
ばあちゃん「あたしなら血圧あがって心臓弱って倒れる。毎日泣いて暮らすと思うわあ」。

学生さん、ものすごく意外そうな顔をして、「反対する?反対したら言うこと聞きますか?」・・・聞かないよなあ。現に私がそうだったもん。
「だったら反対するの意味ないです」。
ああーそうか。国民性の違いなのかどうか、なるほどと思う。

テキパキとした学生さんの動きや人懐っこい表情に、おばあちゃん、あとで私に言う。
「ご主人のおとうさんもおかあさんもあんなお嫁さんなら安心だね。へんにツンツンしてプライドが高い日本の嫁より良かったかもね」。
・・・まったくその通り。
何がいいか悪いかなんてわからない。
韓国や中国へのお見合いツアーで金で若い嫁を買ってくる、なんていう偏見が頭をかすめた自分が恥ずかしいと思った。

これから介護業界では中国や韓国・東南アジアからのヘルパーさんが増えてくるだろう。
私自身もフィリピンのヘルパーさんまたは嫁にお世話されるようになるかも。
へんな偏見は持たず、やっぱり人は話してみるもんだなあ。

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